神戸地方裁判所 昭和38年(行)12号 判決 1969年4月10日
兵庫県宝塚市切畑字長尾山二番地の二一八
原告
武智基教
右訴訟代理人弁護士
川見公直
同
浜田行正
右川見訴訟復代理人弁護士
北川新治
送達場所
兵庫県西宮市池田町九五
被告
西宮税務署長
藤木清太
右指定代理人検事
叶和夫
同
川井重男
同
法務事務官 戸上昌則
同
福田健
同
奥田五男
同
大蔵事務官 宗像豊平
同
大槻福治
同
本野昌樹
同
辻本勇
同
三上耕一
同
村上司
同
衣笠正治
右当事者間の昭和三八年(行)第一二号所得税決定処分取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
被告が原告に対して昭和三七年三月一三日附でなした昭和三三年分の所得税の決定処分は税額九万八〇〇〇円を超える部分につき、同無申告加算税の賦課決定処分は税額二万四五〇〇円を超える部分につき、これを取消す。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。
事実
第一、原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和三七年三月一三日附をもつてなした昭和三三年分の、同年同月三一日附でなした昭和三四年分の各所得税の決定並びに無申告加算税の賦課決定処分は、いずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、次のとおり述べた。
一、請求原因
(一) 被告は原告に対し昭和三七年三月一三日附をもつて、原告の昭和三三年中における課税総所得金額を一〇四万四七五〇円と査定し、同年分の所得税額二〇万円を決定し、同無申告加算税額五万円を賦課決定し、同年同月三一日附をもつて原告の昭和三四年中における課税総所得金額を一五五万一三〇〇円と査定し、同年分の所得税額三四万八八九〇円を決定し、同無申告加算税額八万七〇〇〇円を賦課決定し、各その頃原告にその処分の通知をした。
(二) しかしながら、原告は右各年中において被告が認定したような課税所得を得ていないので右の各課税処分は違法である。
そこで、原告は法定の期間内に被告に対し再調査の申立をしたが棄却され、ついで大阪国税局長に対し審査請求をしたところ昭和三八年四月二日棄却の決定がなされ、原告は翌三日その旨の決定通知を受けた。
よつて、被告のなした原告に対する前記昭和三三年分、同三四年分の各所得税決定及び無申告加算税賦課決定の取消を求める。
二、被告の主張に対する認否及び反論
(一) 原告が被告主張別紙第一、第二目録記載の不動産を所有することは認める。しかしながら別紙第一目録記載の不動産により原告の取得した昭和三三年中の賃料収入は、別紙第三目録記載のとおりであるからこれに符合する限度で被告の主張額を認め、それを超える被告の主張額は否認する。原告の右収入は合計金六三万五六〇〇円であるところ、原告は右不動産につき同年中において別紙第三目録記載のとおり必要経費として合計八〇万五九〇〇円を支出したから、昭和三三年中においては課税の対象となる所得はない。
(二) つぎに、被告主張の別紙第二目録記載の不動産により原告の取得した昭和三四年中の賃料収入は、別紙第四目録記載のとおりであるからこれに符合する限度で被告の主張額を認め、それを超える被告の主張額は否認する。原告の右収入は合計一二八万八四〇〇円であるところ、原告は右不動産につき同年中において別紙第四目録記載のとおり必要経費として合計九五万五〇〇〇円を支出したから昭和三四年中における不動産所得金額は三三万三四〇〇円である。
第二、被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」旨の判決を求め、答弁及び主張として次のとおり述べた。
一、請求原因(一)の事実は認める。(二)の不服申立及び審査決定の事実は認めるが、その余の主張は争う。
二、原告は別紙第一及び第二目録記載の不動産を所有するところ、原告が別紙第一目録(イ)ないし(ニ)記載の不動産により取得した昭和三三年中における賃料及び権利金(または礼金)の収入は同目録記載のとおり合計金一四三万七八〇〇円であり、右不動産につき所得税法上認め得る同年中の必要経費は同目録記載のとおり合計金一五万〇六〇〇円であるから、右不動産の賃貸により昭和三三年中における原告の不動産所得の金額は一二八万七二〇〇円である。つぎに原告が別紙第二目録(イ)ないし(ヘ)記載の不動産により取得した昭和三四年中における賃料及び権利金(または礼金)の収入は同目録記載のとおり合計金二一〇万三九〇〇円であり、右不動産につき所得税法上認めうる同年中の必要経費は同目録記載のとおり金一九万七九〇〇円であるから、原告の右不動産賃貸による昭和三四年中の不動産所得の金額は一九〇万六〇〇〇円である。
よつて、被告のなした原告に対する右各年分の所得税の決定処分は、原告の右各不動産所得の金額の範囲内のものであつてもとより正当である。また右両年分の各所得税に係る確定申告について原告はその申告期限後三ケ月を超えてなおこれをしなかつたのであるから右の無申告加算税を賦課すべきものである。
三、原告は別紙第三、第四目録において(イ)物件の敷地に対する賃借料を所得から控除すべき必要経費として主張するけれども、原告は借地料を支払つていない。また原告は第三目録(ロ)物件につき地盤及び家屋の引上工事費、第四目録(イ)物件につき屋根及び屋根地等修理費、同(ヘ)物件につき便所位置変更工事費をそれぞれ所得から控除すべき必要経費として主張するけれども、右支出はいずれも資産の価値を増加せしめた資本的支出であつて、所得税法の認める必要経費には当らない。
第三、証拠関係
原告訴訟代理人は甲第一ないし第三号証の各一、二、第四ないし第一四号証、第一五号証の一ないし三、第一六ないし第二六号証、第二七号証の一ないし四、第二八ないし第三九号証を提出し、証人武智幸子、同武智亀吉の各証言を援用し、乙第一ないし第一一号証の成立を認め、乙第一二ないし第一八号証の成立は不知と述べた。
被告指定代理人は乙第一号証の一、二、第二ないし第一八号証を提出し、証人森内栄一の証言を援用し、甲第一ないし第三号証の各一、二、第三二ないし第三七号証の各成立を認め、その余の甲号証の成立は不知と述べた。
理由
第一、原告の昭和三三年における不動産所得について
一、原告が別紙第一目録(イ)記載の所有不動産により昭和三三年中に同目録別紙(A)、部屋番号1ないし6、8ないし14、16ないし19、21、ないし24、26ないし34記載の各賃料収入(合計四三万三三〇〇円)を得たことは当事者間に争がない(第三目録(甲)表参照)。
二、そこで、被告主張の別紙第一目録(イ)物件(A)表記載の部屋番号7、15、20、25、の収入の有無につき考察するに、証人森内栄一の証言により同人が作成した書面と認められる乙第一二号証及び同証言によれば被告の主張にそう記載及び供述があるけれども、これらの証拠はそれを裏付ける証拠がなく、かつ成立に争のない甲第三号証の一、二及び証人武智幸子の証言に対比し採用しがたく、他に被告主張の右収入を肯認するに足りる証拠がない。却つて右甲号証及び証人武智幸子の証言によれば右7及び15号室については収入がなく、20号室については昭和三三年一一月と一二月に月額二五〇〇円宛の、右25号室については同年九月と一〇月に計三八〇〇円の賃料収入(合計八八〇〇円)を得たことが認められる。
三、つぎに、被告主張の別紙第一目録(イ)記載不動産の賃貸による原告の権利金または礼金の所得につき考察するに、成立に争のない乙第九号証に証人森内栄一の証言及び弁論の全趣旨を綜合すれば、原告は右の賃貸借にあたり各賃借人より返還を要しないいわゆる礼金として賃料二ケ月分を受領したことが推認される。そこでその控え目な算定方法として右賃借人のうち期間六ケ月以上の者についてのみ算定すれば、原告は少くとも別紙第三目録(イ)物件に対する(甲)表の中村、角野、本田、天野、橋本、深松、神崎、島田、竹林、南条、奥村、西村、能川、奥井、浜田、道上、中川、野村、塩田の一九名からその各月額賃料の二倍にあたる合計金九万六〇〇〇円を受領し自己の所得としたものと推認され、この点に関する証人武智幸子の証言は措信しがたい。
四、つぎに、被告主張の別紙第一目録(ロ)(ハ)(ニ)記載の不動産賃貸による原告の所得につき考察するに、右(ニ)物件の賃料所得収入が一〇万八〇〇〇円であることについては当事者間に争なく、成立に争のない甲第三二、第三三号証、乙第一号証の一、二、同第二、第三号証、証人武智幸子の証言により成立の認められる甲第三八号証及び同証言並びに証人武智亀吉の証言及び弁論の全趣旨を綜合すれば、原告は右(ロ)の建物のうち一戸を昭和三三年一〇月一五日に訴外近藤大助に賃料一ケ月六五〇〇円の定めで賃貸し同人より右一〇月分賃料として三二五〇円、同年一一月、一二月分賃料として計一万三〇〇〇円を取得し、同じく右(ロ)の建物のうち一戸を昭和三三年一〇月訴外足立某に賃料一ケ月五〇〇〇円の定めで賃貸し同年一〇月、一一月分の賃料として計一万円を取得し、さらに同目録(ハ)の建物のうち一戸を昭和三三年八月八日頃に訴外竹下秀雄に賃料一ケ月金七〇〇〇円の定めで賃貸し同人より同年八月分賃料として金六〇五〇円、同年九月ないし一二月分の賃料として計二万八〇〇〇円を取得し、他の一戸を昭和三三年九月訴外赤沢某に賃料一ケ月七〇〇〇円の定めで賃貸し同人より右九月分賃料七〇〇〇円を取得し、ついで同年一〇月一〇日より訴外藤岡文夫が右賃貸借を承継し同人及び右赤沢より同年一〇月分賃料として計七〇〇〇円、右藤岡より同年一一月、一二月分の賃料として計一万四〇〇〇円を取得したことが認められ、さらに原告は右の各賃貸借にあたり訴外赤沢を除く各賃借人より敷金の外に調査料の名目で金五万円宛を受領しこれを信用調査費及び賃貸借契約公正証書の作成費等にあてたがその内少くとも一件につき四万円(合計一六万円)は原告の所得となつていることが推認される。証人森内栄一の証言及び同証言により同人が作成した書面と認められる乙第一七号証によれば原告は前記不動産の賃貸により右の認定額を超える所得を得たとされているけれども、それを裏付ける資料はなく、かつ右(ハ)の不動産についての供述はその新築時期との関係から疑いがあるので、右証拠はたやすく採用しがたく、他に以上の認定を覆えすべき証拠はない。
五、つぎに原告主張の必要経費につき判断する。
(イ) 成立に争のない甲第三号証の一、二に証人武智幸子の証言により成立を認むべき甲第四ないし第一四号証、同第二八ないし第三一号証及び同証言を合わせ考察すれば、原告は別紙第一(第三)目録記載の不動産(セントラルハウス)につき、昭和三三年四月一日以降同年一二月末日までの間に修理費、管理費(外灯費、衛生費、火災予防費、管理人報酬等として別紙第五目録第一記載の各支出(合計二六万四〇〇円)をしたことが認められ、そして右支出は右不動産による賃料所得を得るために直接必要な経費にあたるものと解され、他に右の判断を左右すべき証拠はない。
原告は右認定額以外に昭和三三年四月以降同年一二月までの間に掃除費として毎月四〇〇〇円計三万六〇〇〇円及び消耗費として毎回五〇〇円計二五〇〇円を支出した旨主張し、成立に争のない甲第三号証の二にはその旨の記載がなされているけれども、右の支出についてはそれが前記意義における必要経費にあたることを認めるに足りる証拠がないので右支出費についての主張は採用できない。
(ロ) 原告は右(イ)物件の敷地をその所有者である訴外武智亀吉より賃借し毎月七五〇〇円の借地料を支払つた旨主張し、証人武智幸子同武智亀吉は右主張にそう証言をなし、甲第三九号証には地代受領の記載があるけれども、他方成立に争のない乙第一〇、第一一号証によれば右建物敷地は昭和三二年七月二日訴外武智亀吉より原告に対して売買譲渡し同年九月二〇日所有権移転登記がなされたところ、昭和三五年五月二七日に至り右売買登記を錯誤によるものとし抹消したことが認められるので、原告が地代の支払をしたものとはたやすく信じがたい。よつて原告の主張にそう前記証拠は採用しがたく他に右主張事実を肯認するに足りる証拠はない。
(ハ) 原告は別紙第一(第三)目録(ロ)記載の不動産につき地盤及び家屋の引上げ工事をなしその工事をなしその工事費として金二三万円を支出し、右は所得額より控除すべき必要経費にあたる旨主張する。そして証人武智亀吉の証言及び右証言により成立を認むべき甲第一五号証の一によれば、原告は右(ロ)の建物が低湿地にあつて住宅に適せず建物の耐久性をも阻害するため、昭和三三年五月右主張の地上げ工事をなしその工事費として金二三万円を支出したことが認められる。しかしながら右の工事は土地建物の価値を高めるための工事であつて結果的にも価値の増加をきたしたものと認められるので、右支出はいわゆる資本的支出であつて所得税法にいう必要経費には当らないものと解すべきである。
(ニ) 原告は別紙第一(第三)目録(ロ)ないし(ニ)記載の建物に対する管理費として一ケ月一万円の割合による計一二万円を支払し、右は必要経費にあたる旨主張するけれども、同目録(イ)記載の建物につき管理人報酬として一ケ月一万三八〇〇円ないし一万五三〇〇円を支払つたことは前記五(イ)(別紙第五目録第一)で認定したとおりである。そして証人武智幸子の証言及び弁論の全趣旨によれば右(ロ)ないし(ニ)記載の建物は右(イ)の建物と共に右武智幸子が管理していた(もつとも右(イ)の建物について昭和三四年八月までは訴外橋本みゑと共同で管理していた)ことが認められるところ、右不動産管理の規模内容、物件所在地との関係などに照らし右(ロ)ないし(ニ)物件の管理につき右武智らに対し特別の管理費を支払う必要があつたものとはたやすく認めがたく、他にこれを肯認すべき証拠がないので、原告の右主張は採用できない。
六、したがつて、原告の昭和三二年中の不動産所得の金額は六三万四〇〇〇円となる。
第二、原告の昭和三四年中における不動産所得について
一、原告が別紙第二目録(イ)記載の所有不動産により、昭和三四年中に同目録別表(B)、部屋番号1ないし10、11、の内五月分まで、12ないし19、21、22、23の内五月分まで、24、26ないし37各記載の賃料収入(合計五九万八〇〇〇円)を得たことは当事者間に争がない。(第四目録(乙)表参照)
二、そこで、被告主張の別紙第二目録(イ)物件(B)表記載の部屋番号11の内六月分以降、部屋番号20、同23の内六月分以降、同25の各賃料収入の有無につき考察するに、証人森内栄一の証言により同人が作成した書面と認められる乙第一三号証及び同証言によれば被告の右主張にそう記載及び供述があるけれども、これらの証拠はそれを裏付ける証拠がなく、かつ成立に争のない甲第三号証の一、二及び証人武智幸子の証言に対比し採用しがたく、他に被告主張の右収入を肯認するに足りる証拠がない。却つて右甲号証及び証人武智幸子の証言によれば25号室は賃貸しておらず、その他右各部屋の賃料収入は原告主張の別紙第四目録(乙)表記載のとおりであることが認められる。
三、つぎに、被告主張の別紙第二目録(イ)記載の不動産賃貸による原告の権利金または礼金の所得につき考察するに、成立に争のない乙第九号証に証人森内栄一の証言及び弁論の全趣旨を綜合すれば、原告は右の賃貸借にあたり各賃借人より返還を要しないいわゆる礼金として賃料二ケ月分を受領したことが推認される。そこでその控え目な算定方法として右年度における新規賃借人のうち期間六ケ月以上の者についてのみ算定すれば、原告は少くとも別紙第三目録(イ)物件に対する乙表の竹下、上野、菊森、半田、亀井、玉、小牧、塩谷から各その月額賃料の二倍にあたる合計金四万円を受領し自己の所得としたものと推認され、この点に関する証人武智幸子の証言は措信しがたい。
四、つぎに、被告主張の別紙第二目録(ロ)ないし(ヘ)記載の不動産賃貸による原告の所得につき考察するに、同(ニ)記載物件に対する賃料収入が一〇万八〇〇〇円であることについては当事者間に争なく、成立に争のない甲第三二ないし第三七号証、乙第一ないし第九号証、前記甲第三八号証、証人武智幸子同武智亀吉の各証言及び弁論の全趣旨を綜合すれば、原告は右(ロ)物件の内一戸を前年度に引続き訴外近藤大助に賃貸し昭和三四年一月から一二月まで一ケ月六五〇〇円の割合による賃料計七万八〇〇〇円を取得し、他の一戸を訴外矢田谷某に対し同年六月より賃料一ケ月金五五〇〇円の定めで賃貸し同年一二月までの間に右割合による賃料計三万八五〇〇円を取得し、右(ハ)物件の内各一戸を前年度に引続き訴外竹下秀雄及び藤岡文夫にそれぞれ賃貸し昭和三四年一月から一二月までの間に一ケ月七〇〇〇円の各割合による賃料計一六万八〇〇〇円を取得し、右(ハ)物件の内一戸を同年三月より訴外徳永生物店に賃料一ケ月八〇〇〇円の定めで賃貸し、右三月分賃料五三〇〇円、同年四月より一二月までの賃料計七万二〇〇〇円を取得し、右(ホ)物件の内一戸を昭和三四年一〇月訴外丸菱工業に賃料一ケ月九〇〇〇円の定めで賃貸し同人より右割合による一〇月ないし一二月分賃料計二万七〇〇〇円を取得し、右物件の内一戸を同年一二月訴外松井某に賃料一ケ月九〇〇〇円の定めで賃貸し同人より右九〇〇〇円を取得し、右物件の内一戸を同年一〇月訴外矢頭某に賃料一ケ月四七〇〇円の定めで賃貸し(乙第五号証)同人より右割合による一〇月ないし一二月分賃料計一万四一〇〇円を取得し、右物件の内各一戸を同年一一月訴外松尾某、畑尾某、松屋某にそれぞれ賃料一ケ月四八〇〇円の定めで賃貸し同人らより一一月一二月分賃料計(三戸分)二万八八〇〇円を取得し、さらに右(ヘ)物件の内一戸を同年四月四日訴外能勢常三郎に賃料一ケ月七〇〇〇円の定めで賃貸し(乙第六号証)同人より右四月分賃料として六〇〇〇円、五月ないし一二月分賃料として計五万六〇〇〇円を取得し、同物件の内一戸を同年四月二〇日訴外関敏彦に賃料一ケ月七〇〇〇円の定めで賃貸し(乙第七号証)同人より右四月分賃料として二五〇〇円、同年五月ないし一二月までの賃料として計五万六〇〇〇円を取得し、右物件の内一戸を同年五月訴外小松文雄に賃料一ケ月七〇〇〇円の定めで賃貸し(乙第八号証)同人より同年五月ないし一二月までの賃料として計五万六〇〇〇円を取得したこと(以上合計六一万七二〇〇円)が認められ、さらに原告は昭和三四年度における新規賃借人矢田谷ら一一人より敷金の外に調査料の名目で各人より金五万円宛を受領し、これを信用調査費及び賃貸契約公正証書の作成費等にあてたが、その内少くとも一件につき四万円(合計四四万円)は原告の所得となつていることが推認される。前記証拠のうち以上の各認定に反する部分はいずれも採用しがたい。証人森内栄一の証言により同人が転写もしくは作成した書面と認められる乙第一五証、同第一七、一八号証及び同証言によれば以上の認定額を超える賃料所得の記載及び供述があるけれども、これらの証拠は例えば乙第一五号証の(ホ)物件の賃貸日はいずれも昭和三四年一〇月一〇日とされているところ六戸の家屋の賃貸日が同一日であることには疑問があり、また乙第一八号証記載の矢頭の賃料五五〇〇円は乙第五号証の同人の回答書と一致せず、同号証記載(ヘ)物件の能勢、関、小松に対する賃料八〇〇〇円は乙第六ないし第八号証(同人らの聴取書)の記載と一致しないなど必ずしも正確とはいえず、その他前掲甲第三八号証及び証人武智幸子の証言に対比し採用しがたい。
五、つぎに原告主張の必要経費につき判断する。
(イ) 成立に争のない甲第三号証の一、二に証人武智幸子の証言により成立を認むべき甲第一六、第一七号証、第一九ないし第二三号証、第二五第二六号証及び同証言を合わせ考察すれば、原告は別紙第二(第四)目録(イ)記載の不動産(セントラルハウス)につき昭和三四年度において修理費、管理費(外灯費、衛生費、火災予防費、管理人報酬等)として別紙第五目録第二記載の各支出(合計二五万九〇〇円)をしたことが認められ、そして右支出は右不動産による賃料収入を得るために直接必要な経費にあたるものと解すべきである。原告は管理人の報酬につき右認定額を超える主張をするけれども、その支出を認むべき証拠はない。
さらに原告は、右認定額以外に昭和三四年一月以降同年一二月までの間に掃除費として毎月四〇〇〇円を支出し、昭和三四年二月に屋根等修理費として四三、五〇〇円、同年九月に屋根等修理費として三一、六〇〇円を各支出し、右はいずれも必要経費にあたる旨主張するけれども、右定額の掃除費については前説明(第一、五、(イ))のとおりそれが必要経費にあたることを認めるに足りる証拠がなく、また右屋根等の修理費につき考えるに、所得税法において固定資産の所得額から控除すべき修理費は、その支出によりその固定資産の取得の時においてその資産につき通常の管理または修理をするものとした場合に予測されるその資産の使用可能期間を延長せしめず、かつその支出によりその固定資産の取得の時においてその資産につき通常の管理または修理をするものとした場合に予測されるその支出の時におけるその資産の価額を増加せしめない限度における修理費をいうものと解すべきところ原告主張の右修理費が右限度内のものであることを認めるに足りる証拠がないので原告の右各主張は採用できない。
(ロ) 原告は、別紙第二(第四)目録(イ)物件(セントラルハウス)の敷地につき、その所有者武智亀吉に対して月額七五〇〇円の借地料を支払つた旨主張するけれども、前記第一、五、(ロ)で説明したと同一の理由により右主張は理由がない。
(ハ) 原告は、別紙第二(第四)目録(ヘ)物件につき便所取替等の工事費として計二一万五〇〇〇円を支出し、右は必要経費にあたる旨主張する。そして証人武智亀吉の証言により成立の認められる甲第二七号証の一ないし四に同証言を合わせると、原告は右主張の工事費を支出したことが認められる。しかしながら、右証拠により認められる工事内容及び工事費の額に照らすと右の支出は右不動産の価値を増加せしめたいわゆる資本的支出にあたり、所得税法にいう必要経費には当らないものと解すべきである。原告の右主張は採用しがたい。
(ニ) 原告は、別紙第四目録(ロ)ないし(ヘ)記載の不動産に対する管理費として一ケ月一万五〇〇〇円の割合による合計金一八万円を支出し右は必要経費にあたる旨主張するけれども、右主張は前記第一、五、(ニ)で述べたと同じ理由(ただし物件を(ロ)ないし(ヘ)とし、別紙目録を第五目録第二とする。)により理由がない。
六、したがつて、原告の昭和三四年中の不動産所得の金額は一五五万二三〇〇円となる。
第三、税額について
原告の昭和三三年及び昭和三四年中の所得及び所得控除につき特別の主張立証がない以上原告の昭和三三年及び昭和三四年中の総所得金額がそれぞれ六三万四〇〇〇円及び一五五万二三〇〇円となることはさきに認定したところから明らかであり、これについての基礎控除の金額がいずれも九万円であることは昭和二二年法律二七号所得税法(以下「旧所得税法」という。)一二条(昭和三七年法律四四号による改正前の規定)により明らかである。したがつて、原告の昭和三三年分の所得税及び昭和三四年分の所得税の各課税標準である課税総所得金額はそれぞれ五四万四〇〇〇円及び一四六万二三〇〇円となる。
ところで、原告が昭和三三年分の所得税及び昭和三四年分の所得税に係る各総所得金額等につきいずれも正当の事由がないのに旧所得税法二六条に定める確定申告書をその提出期限内に提出しなかつたこと、右提出期限の翌日から本件決定処分の通知をなした日までの期間がいずれも三箇月をこえること、及び原告の肩書住所地の所轄税務署長が被告であることは、本件口頭弁論の全趣旨により、これを認めることができる。そうすると、被告は原告に対し決定処分をもつて原告の昭和三三年分の所得税及び昭和三四年分の所得税の各税額を、かつ、賦課決定処分をもつて右所得税法に係る各無申告加算税額を定めるべきである。
そこで、原告の昭和三三年分の所得税の課税標準たる課税総所得金額五四万四〇〇〇円については旧所得税法一五条(昭和三四年法律七九号による改正前のもの)に定める簡易税額表により、また昭和三四年分の所得税の課税標準たる課税総所得金額一四六万二三〇〇円についてに旧所得税法の一部を改正する昭和三四年法律七九号附則五項に定める附則別表第一により、それぞれその税額を求めるべく、これによると、原告の昭和三三年分の所得税額九万八〇〇〇円、昭和三四年分の所得税額三四万九一九〇円となり、さらに右所得税に係る各無申告加算税については昭和三七年法律六七号による改正前の旧所得税法五六条三項三号(なお同法五六条六項、五四条四項)によりその税額を定めるべく、これによると、原告の昭和三三年分の所得税に係る無申告加算税額二万四五〇〇円、昭和三四年分の所得税に係る無申告加算税額八万七二五〇円となることがそれぞれ計数上明らかである。
第四、本件処分
被告が原告に対して昭和三七年三月一三日付決定処分をもつて原告の昭和三三年分の所得税の課税総所得金額を一〇四万四七五〇円税額を二〇万円とし、同日付賦課決定処分をもつて右所得税の無申告加算税額を五万円とし、同年三月三一日付決定処分をもつて原告の昭和三四年分の所得税の課税総所得金額を一五五万一三〇〇円、税額を三四万八八九〇円とし、同日付賦課決定をもつて右所得税の無申告加算税額を八万七〇〇〇円として、右各処分につきその頃通知をしたことは当事者間に争がない。
第五、結び
よつて、被告のなした原告に対する昭和三三年分の所得税の決定処分は税額九万八〇〇〇円、無申告加算税の賦課決定処分は税額二万四五〇〇円の限度で正当であるが、それを超える部分は違法として取消すべきものと認め、原告の本訴請求を右違法の限度で認容し、昭和三三年分の所得税の決定処分、無申告加算税の賦課決定処分についてその余の取消請求及び昭和三四年分の所得税の決定処分並びに無申告加算税の賦課決定処分の取消を求める請求は棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 原田久太郎 裁判官 中川幹郎 裁判官 三谷忠利)
第一目録 (被告主張、昭和三三年分)
(イ) 大阪市東淀川区十三南之町三丁目七一番地所在
共同住宅(セントラルハウス)
<省略>
(ロ) 大阪市西淀川区花川南之町二三八番地所在
二戸建住宅 建坪二三坪
<省略>
(ハ) 右同所同番地所在
三戸建住宅 建坪五一坪
<省略>
(ニ) 右同所同番地所在
三戸建住宅 建坪四七坪〇八
<省略>
被告主張(A)表 (昭和33年 セントラルハウス)
<省略>
第二目録 (被告主張・昭和三四年分)
(イ) 物件
<省略>
(ロ) 物件
<省略>
(ハ) 物件
<省略>
(ニ) 物件
<省略>
(ホ) 大阪市西淀川区花川南之町三五番地所在
二階建 六戸 建坪七二坪
<省略>
(ヘ) 右同所同番地所在
三戸建住宅 建坪五一坪
<省略>
被告主張(B)表 (昭和34年 セントラルハウス)
<省略>
第三目録 (原告主張、昭和三三年分)
(イ) 大阪市東淀川区十三南之町三丁目七一番地
共同住宅(セントラルハウス)昭和三三年三月取得
<省略>
(ロ) 大阪市西淀川区花川南之町二三八番地
二戸建住宅 建坪二三坪 改修の上昭和三三年一〇月より賃貸
<省略>
(ハ) 右同所同番地
三戸建住宅 建坪五一坪 昭和三三年八月新築
<省略>
(ニ) 右同所同番地
三戸建住宅 建坪四七坪〇八
<省略>
原告主張(甲)表 (昭和33年 セントラルハウス)
<省略>
第四目録 (原告主張、昭和三四年分)
(イ) 物件
<省略>
(ロ) 物件
<省略>
(ハ) 物件
<省略>
(ニ) 物件
<省略>
(ホ) 物件
二階建六戸 建坪七二坪
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(ヘ) 物件
三戸建住宅 建坪五一坪
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原告主張(乙)表 (昭和34年 セントラルハウス)
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第五目録
第一、セントラルハウス、昭和三三年分支出経費
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第二、セントラルハウス、昭和三四年分支出経費
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